日本を揺るがせた安倍晋三元首相銃撃事件。凄惨な殺人事件というだけでなく、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る被害や、教団と政治家の関係が明るみに出る契機となり、社会に多くの問いを投げかける。人間の欲望や社会の矛盾を鋭く洞察してきた作家の吉村萬壱さんは「この事件の深いところには、政治に対する『届かなさ』がある気がしてしょうがない」と、問題を長年放置してきた政治や社会の責任を指摘する。最新の小説「CF」(徳間書店)で責任とは何かを問い、新興宗教にも関心を寄せる吉村さんに、事件への思いを聞いた。(共同通信=井上詞子、森原龍介) ▽届かない言葉、消えない情念 吉村さんは現実社会と少しずれた奇妙な世界で生きる人々の姿を描き、人間の生の根源をえぐり出す。「CF」は現在の日本を思わせる社会を舞台に、あらゆる責任を「無化」する仕組みを開発した企業を巡る群像劇で、無責任な社会に憤る若者がテロを企てる様子