僕には、故郷と呼べる場所がない。 もちろん、物理的に “生まれた” 場所はある。生まれは東京。母親の実家近くの病院で、平成初期のクリスマスにすぽーん! とこの世に生を受けた。それが僕だ。 現在も都内に住んでいるため、それだけ聞けば「ただの東京人じゃん」と思われるかもしれない。「てやんでえ! こちとら江戸っ子でぇ!」と、迷いなく啖呵を切れればよかったのだけれど……自分がそれを言うのは、江戸っ子に失礼だ。 と言うのも、僕が生まれた頃、両親は東京に住んでいなかったから。出産のタイミングで母親の実家に帰省していたに過ぎず、普段は父親の職場がある茨城県のアパートで生活していたらしい。当然、しばらくするとアパートに戻り、赤ん坊の僕はバブバブアウアウ言いながら茨城の大地を這いずり回ることになった。まだ立てないからね。仕方ないね。 ところがどっこい。言葉もままならない僕が茨城の野っ原をうねうねしていたのは