僕のフィルムカメラ、NikonFEは防湿庫の奥で眠っている。先日引っ張り出したら、露出計の針が動かなくなっていた。電池を換えても駄目だ。 この街に戻ってきた6年前。見知ったはずの土地が全然違うところのように思えて、あちこちでシャッターを切っていた。あの一年のフィルム、自分が撮ったのではないような写真ばかりが残っている。 あの後僕はデジタルカメラを買って、そちらばかり使うようになってしまったのだけれど、妻がたまに「あなたもフィルムを使えばいいのに、私は見たいよ」と言ってくれるので、子どもが産まれる前になんとかしたいなあ、と思っているのだった。 一日いちにち、妻がiPhoneアプリを見ながら「あと○日です」と教えてくれる。 僕はその声を、まったく実感の持てないまま聞き、思い出したように「名付け.txt」を開いてはそこに書き並べてあるものを見比べたりしている。 「子どもが産まれたら、またあの時の