凄(すさ)まじい熱気――。 フジテレビ系で土曜の夜に放送中のドラマ『カラマーゾフの兄弟』の撮影現場である。色欲と金の亡者と化した父親の死をめぐって、おたがい疑心暗鬼となった兄弟二人が、拘置所の窓越しにはげしく罵(ののし)りあう。深層心理のレベルでは、兄弟のそれぞれに「父親殺し」の動機が渦を巻く……。 二〇〇七年に新訳『カラマーゾフの兄弟』が話題となり、その後いったんは下火となりかけたドストエフスキー熱だが、ここに来てにわかにブーム再燃のきざしが見られる。いや、新訳登場の前からもすでにブームのきざしはあった。 今世紀に入ってから、日本の文学界をリードする作家たちの作品を一覧するだけでいい。いずれも「父の死」をテーマの中心にすえた村上春樹『海辺のカフカ』と大江健三郎『水死』の登場。さらには、平野啓一郎『決壊』、鹿島田真希『ゼロの王国』、高村薫『太陽を曳(ひ)く馬』、そして最近では、辻原登の『冬