峠うどん物語 上・下 [著]重松清 震災後、様々な言葉が紡がれた。復興へのヴィジョン、原発批判、被災地のルポ……。 その言葉の渦のなかで、最も取り残されたのは、震災で大切な人を亡くした人たちだったのではないか。「死者」という問題と、我々は本当に対峙(たいじ)したのだろうか。 本書の舞台は、峠のてっぺんに建つうどん屋。もともとは木々に囲まれた静かな店だったが、突然、向かいの雑木林が伐採され、市営斎場がオープンした。店の客層は一変。斎場で故人を見送った人たちが利用する店になった。 主人公は、この店を切り盛りする老夫婦の孫。女子中学生の「よっちゃん」は、日々「三人称の死」と出会い続ける。そして、その過程で静かに自己の生と向き合う。 身近な人間の死は、確かに喪失だ。もう「あの人」はいない。しかし、私たちは喪失と同時に新たに出会っている。死者となった「あの人」と。死者は「私」に内在しながら、「私」を