人はなぜ自ら命を絶つのか。作家平野啓一郎が、長編『空白を満たしなさい』(講談社)で「自殺」問題に正面から取り組んだ。日本では昨年、2万7766人もが自殺した。今の時代をどう生きるのか、生きづらさにどう対処するのか、一つの提案がここにある。 「つらいことや悪いことが重なって自殺すると思われるが、生活が充実していても一流企業の社員でも自殺することがある。誰にでも起こりうることだ。根性がないからと言われることにも反発があった」 物語の舞台は、死者が生き返ったニュースが相次ぐ現代。主人公はその「復生者」のひとり土屋徹生、36歳で、3年前に自殺していた。妻を愛し、息子も生まれ、仕事も苦労した企画が軌道にのりかけていた時で、自他共に「幸せ」と認める状態だった。なのに、なぜ? 徹生は、自分は殺されたと思い込み、「空白」となっている死の直前の記憶をたどっていく。 自殺対策のNPOなどに取材し、リストカット