「砂の女」などで知られる小説家で劇作家の安部公房が終戦直後の昭和21年秋、22歳で書いた未発表の短編小説が見つかったことが6日、分かった。北海道に住む安部の実弟、井村春光さんが自宅に保管していた。7日発売の文芸誌「新潮」12月号に全文が掲載される。 短編は「天使」という題で、A5判ノート19枚に黒インクで書かれていた。旧満州から日本への引き揚げ船内という過酷な環境下で執筆されたとみられ、安部の3作目の小説になる。左右の行を空け、横書きノートに縦書きしていくスタイルは初期の自筆原稿と同じで、安部の長女、安部ねりさん(58)が安部の青年期の筆跡であると確認した。保管していた井村さんは文学への関心が強く、安部が発表前の作品をよく見せていたという。 「天使」は、監禁されていた病棟を抜け出した「私」が主人公。通行人や看護人ら外界のすべてが天使に見え、自らをも天使と認識していく主人公の奇妙な一日が滑稽