「ラ・ボルド」。仏の哲学者・精神分析医フェリックス・ガタリが勤務していたことでも知られる精神科病院だ。その特徴は、患者と医者の区別が明確でない点にある。見た目の問題だけではない。病院における様々な約束事を決めるのに、医者とスタッフと「患者」が一緒になって話すというのだ。つまり、そこにいる人たちの関係性や制度が流動的になっている。より正確に言えば、そうなるように維持されている。 だから。ラ・ボルドを写し出そうとするこの写真集では、誰が誰であるかの説明は省かれている。加えて、時の前後がわからないように編纂(へんさん)されている。最初は戸惑うが、やがては、本の中を散策することを楽しめるようになる。 そして気づく。夜とわかる写真がないことに。また、ほとんどの人が微笑(ほほえ)んでいることに。それはまるで夜の来ない楽園のようで、露出過多の白く飛んだ写真がその印象を強める。と同時に、楽園の脆(もろ)さ