13日死去した丸谷才一さんは、かじ取りを任された毎日新聞の書評欄「今週の本棚」に、イギリスの書評ジャーナリズムに親しんだ青年時代にはぐくんだ「新聞書評の理想」を、惜しみなく注ぎ込んだ。 「書評はそれ自体、優れた読み物でなければならない」との信念に基づいた紙面作りは「程度の高い案内者が、本の内容を要約して読者への道案内をする」という、新しい書評となって結実した。 書評の分量を最大で原稿用紙5枚(2000字)に大幅拡充したほか、書評執筆者名を書名や著者名の前に掲げ、各界の一流の書き手が責任をもって本を紹介、評論するスタイルを確立した。この「今週の本棚」は各紙書評欄にも影響を与え、丸谷さんの理想によって、日本の新聞書評全体が革命的な進化を遂げたといえる。 02年には、書評をまとめた本を対象とする初めての賞「毎日書評賞」の創設にかかわった。常に本を愛し、大切に思い続けた作家、文学者だった。【井上卓