(早川書房・2205円) ◇丸谷才一の愛した“詐称と異形の英作家”を追う 『書かれざる本の書評集』−−もしこんなタイトルの本が、何処(どこ)にあるのか誰も知らない出版社から出されて、私の眼(め)の前に来たとしたら、一体どうすればいいのだろうか。ニンマリすべきなのか、それとも憮然(ぶぜん)とすべきなのか。 実はこれは冗談ネタではないのだ。実際にこのタイトルの本を構想し、何本かの原稿を雑誌に発表した男がいたのである。その書評の対象となった(あるいは、なりかけた)のはマキャヴェルリの『報道・南アフリカ遠征』、キケロ『ジャンヌ・ダルク弁論』、一八世紀英国の評論家ジョンスン博士が同国の一九世紀の批評家を論じた『カーライル伝』等々。あきれた悪ふざけと言うしかないのだが、こんなことを平然とやってのけるのは、常識的には英国の作家にきまっている。彼の名前はフレデリック・ウィリアム・セラフィーノ・オースティン