ツチノコや人面犬など、日本では時折、異形の生き物が子供たちの話題となる。私が2011~15年のベルリン特派員時代、幼い娘と一緒に暮らしていたドイツでも「えたいの知れない」生き物は常に子供の人気だった。中でも根強かったのが、突然オオカミに変身する「人狼(じんろう)」、つまりオオカミ男である。 オオカミは日本では絶滅した動物だが、ドイツでは21世紀に入って数が増えており、今も存在感抜群なのだ。オオカミはなぜ増えたのか。なぜ人狼伝説は生き続けるのか。今回はオオカミを巡る話を考えてみたい。 息を吹き返した伝説 人狼を巡る奇妙なうわさが、20世紀後半のドイツで広まった。この話を調査し、08年に「モアバッハの怪物」という本を出版したのが、マインツ大学民俗学研究員のマティアス・ブルガルト氏だ。 「1988年、旧西ドイツの駐留米軍基地の近くにあるモアバッハの森に、後ろ脚で人間のように立つ巨大なオオカミ男が