安倍晋三元首相が殺害された事件に、「ついに起きてしまった」と思った。2008年の秋葉原無差別殺傷事件以来、「いつか政治家が標的になる」と危惧してきた。 日本では戦前、政治家や実業家を標的にしたテロ事件が頻発した。テロというと、特定の過激組織や政治思想に導かれた明確な理由でターゲットを攻撃し、国家などに要求をのませたり、社会を恐怖に陥れたりするものとされる。 ところが、戦前のテロの多くは、背景に犯人自身の貧困や孤独などによる生きづらさと、それへの怒りがあった。秋葉原事件など近年の大量殺傷事件の多くも、この背景が共通する点で戦前からの「テロ」の系譜に連なると考えてきた。近年の事件は、「たまたま」要人が標的ではなかったり、政治的な要求がなかったりしただけだ。 個人的な怒りと要人テロ 私が秋葉原事件後に著書で論じた大正時代の右翼テロリスト、朝日平吾は、1921年に安田財閥の祖、安田善次郎を殺害した