日本の酒造りの土壌が育てた、 蒸留界のアンファン・テリブル タガメのジン。水生昆虫であるタガメのハードリカー。恐る恐る飲んだときの鮮烈で爽やかな体験と薬瓶の美しいエチケットが忘れられない。酒好きの間では、完成度の高い酒造りが話題となっていたから〈辰巳蒸留所〉のことは知っていた。たぶん世界初、昆虫を蒸留する自由さ、それをきちんと仕立てる技術。岐阜・郡上八幡の蒸留家を訪ねた。 「繁殖期のタガメのオスのフェロモンは、青リンゴのようなフルーティな芳香がある。東京の〈ANTCICADA〉と共同開発しました。タガメの存在を味に感じられるように蒸留しました。うまくできたと思います」 辰巳祥平さんがこの地を訪れたのが2016年。そこから時を遡ること16年。高校時代長距離ランナーとして活躍した後、箱根駅伝常連・東京農業大学陸上部に入部。が、1年でけがをし、競技から距離をとる。ここから今に連なる辰巳さんの酒造