妻の実家は江戸時代から続く箱職人で僕はその一子相伝の弟子である。ここ数十年は義父が「伝統」といえるかどうかわからない、いかがわしい技術をひとりで守ってきた。妻と義妹が姉妹で技の伝承を頑なに拒んだのは伝統を守るのが嫌だからではない。伝統といえるかわからない代物だからだ。実際、義父でさえ「自分の代で無くなったほうが世の中のためだ」と言っているくらいの代物なのだ。義父いわく、技術的に大したものではなく、有史上一度もブレイクしたこともなく、ただ長くやってきただけの、歴史的な価値のない技術であり流派なのである。代々の当主も箱だけでは食べられず、副業的サブ的な仕事として細々と陰で続けてきたのである。工房に作品は置いてあるもののまったく売れない。月売上は一万くらいだろう。哀しいかな、単位は個ではなく円である。そんな伝統を誰が引き継ぎたがるだろうか。一応、僕が後継者ということになっているが、それは「滅びて