ブルーナさんはいつも、子どもたちの笑顔を心の中に思い浮かべていた。1955年に出版された絵本「ちいさなうさこちゃん」(第1版)は、幼かった長男に聞かせてあげた話がもとになって生まれた。69年の絵本「こいぬのくんくん」は、長女から「犬のお話もかいて」とせがまれてかいている。 わが子だけでなく世界中の子どもたちを包み込むような、あたたかで優しい絵本やイラストを描き続けた。その原点には、平和への強い願いがあった。 10代半ばで第2次大戦を体験し、祖国オランダはナチス・ドイツに侵攻された。戦時下の冬のある日、ユダヤ人が冷たい湖を泳いで逃げるのを見て、憤りと悲しみを覚えたという。この体験が「ぼくの人生を決定づけたのかもしれません」と振り返っていた。 戦争が終わると、ピカソやマティスらの自由な作風にあこがれ、出版社の後継ぎでありながら画家を志した。猛反対した父と妥協するかたちで、1951年に父の出版社