職場には男しかいないから、居心地はいいよ、えっと、要するに、ホモソーシャルなんだけどね。 僕がそう言うと目の前の女が黒いマニキュアを塗った爪をひらひらさせてでかい声で笑った。そして宣言した。なんだ、自覚してるんじゃん、よっ、このホモソ野郎。 すごいせりふである。完全に罵倒だ。そりゃ、僕が自分で言ったことの引き写しなんだけど、自覚がある人間ならののしってもいいというものではない。というか、自覚があることを示すのは非難を未然に防ぐためなのに、そういう自衛の作法がぜんぜん通用しないのだ。社会性に問題がある。 いい年をして奇抜な髪型、垂れ目のちょっと変な顔、ひじきみたいなマスカラ、いつも踵のついた靴。とてもよく笑う。誰であっても女性に対しては少し格好つけてしまうところが僕にはあるんだけど、この人はそういう意味で楽な相手だ。女だけど、恋愛対象が女だけなのだ。色恋沙汰に陥る可能性がゼロだとわかっている