『破局』遠野遥著(河出書房新社・1400円+税) 今年上半期の芥川賞を受賞した話題作。作者は28歳である。 本作の主人公は大学4年生の「私」で、作者自身の母校と同じ、明らかに慶応と分かる大学に通っている。 公務員試験の勉強にいそしみ、筋トレに励みつつ、卒業した高校のラグビー部で後輩の指導にも当たっている。 麻衣子という同じ大学に通う恋人もいるが、「私」は新入生の灯(あかり)に引かれていく。そして、灯との性愛の日々を送るようになる…。 と、このように筋書きを要約しても、この小説のじつに奇妙な感覚は伝わらないのだ。 題名に『破局』とあるので、おそらく、就職に向かって順調に進む「私」の平穏無事な生活に何かの事件が訪れるだろうと予測はできるのだが、そのドラマ性が読者を引っぱっていくのでもない。 「私」の、理路整然として淡々と運ぶ語りのなかに、なにか不穏で、いびつなものが感じられ、薄気味悪いのだ。