取材ノート ベテランジャーナリストによるエッセー、日本記者クラブ主催の取材団報告などを掲載しています。 児玉誉士夫との初対面は喧嘩から始まった。面会の約束はその日の朝10時であった。世田谷区等々力の児玉邸の応接間に通されたまま主が現れてこない。イライラしてきた。11時過ぎやっと顔を出した。私は言った。「10時だというから私はここに来た。恋人との待ち合わせでも30分待っても来なかったら私は帰る。人を待たせるとは失礼だ」「いや昨夜は遅かったから……」「理由にならない」「すまん事をした」と相手は謝った。昭和30年初めのころであったと記憶する。前年に起きた保全経済会事件の伊藤斗福についての取材であったと思う。私は30歳、児玉は44歳。私にははるかに年上に見えた。修羅場をくぐってきた腹の据わった人物と感じ、悪い印象はなかった。 このやり取りを隣の部屋で当時秘書、現東京スポ―ツ新聞社会長の太刀川恒夫さ