私が小さかったころ、土曜になると近所の保育園に書の先生がやってきて、行くと教えてくれた。私は大人になるまで習い事というものをしたことがなくて、この書道教室だけが例外である。要するによぶんなカネを費やさず家事をするという身分で育ったわけだが、書の先生が来る日に保育園の入り口にかかる札には、麗々しく「生徒募集中 月謝千円」と書いてあったから、まあ千円なら、ということだったのだろう。 保育園でいちばん大きい部屋に入ると長机がいくつかあって、子どもたちはそこに座って書く。床で書く子もいる。実にいろんな年齢の子どもが出入りしている。先生は午後いっぱいいて、子どもたちは好きなときに来て好きなときに帰る。授業のようなものはとくになくて、小学校で使うお習字セットを持って行き、保育園の本棚の上のほうに仕舞ってある「千字文」というお手本を見て書く。練習は新聞紙でやる。半紙を使うのはよく練習してからである。半紙