魔女。箒にまたがって空飛ぶ老婆。大釜で子どもを煮て、その脂肪を取り出す魔法使い。森の奥深くで猥雑の限りを尽くすサバトの集会。こうした魔女にまつわるイメージは、長い時間をかけてヨーロッパの民衆の中で培われてきた。そこには、恐怖と共に畏敬にみちた存在としての魔女の姿が投影されていた。元来、キリスト教と出会う前の魔女信仰には、ケルトやゲルマンの土俗的な母性信仰の名残りがあった。ユングは魔女は元型のひとつであると指摘したが、実際魔女崇拝の神話類型はバビロン、フェニキアなど古代地中海世界の地母神あるいは太母神信仰(ディアナ、アルテミス、キュベレ信仰などを含む)にまで遡ることができる。だが、そうした異教の豊穣神崇拝を拒否するキリスト教がゲルマンやケルトの世界に布教されていく過程で、「原罪」の観念と結び付けられた魔女はそのイメージを歪められ、「悪魔」と契約を交わした悪しき存在として民衆の中で再形成されて