「ジョーカー・ゲーム」は柳広司による、日本ならではのオリジナリティ溢れるスパイ小説だ。いや、「知の巨人」と言われる、元外務省主任分析官である作家の佐藤優によれば「インテリジェンス・ミステリー」という新しい分野だと讃えている。 「知の巨人」佐藤優がインテリジェンス・ミステリーと命名 この本は連作形式、つまりある同一設定のもとでの別々のエピソードの短編集であり、全体として一つの長編としても読めるタイプの編纂パターンであり、私もその形式は割と好きである。 余談だが、この連作形式と通常の長編小説を、見事に違和感なく融合したのが横山秀夫だ。特に色々な意味で物議を醸した、それでも名作と言える「半落ち」はその典型だと思う。 話を戻して、この連作の各エピソードの舞台は終戦前夜の敗色濃厚の日本、同時期のイギリス、同じくシンガポールなどだ。 実在した日本の諜報員養成機関「陸軍中野学校」をモチーフとした「D機関