「ベルリンの壁」崩壊後の1989年11月、西側から壁とブランデンブルク門を見ようと集まった東独の人たち 21世紀に入って約四半世紀がたった今日、国内外で一種の「歴史ブーム」が生じているように思われる。実際、歴史小説ならぬ、歴史学者による研究書が多数出版され、E・H・カー『歴史とは何か 新版』(近藤和彦訳、岩波書店・2640円)は大ヒットとなった。それにしても、なぜ今「歴史」なのか。 フランソワ・アルトーグは、『「歴史」の体制 現在主義と時間経験』(伊藤綾訳、藤原書店・5060円)において、現在に至る歴史研究を、過去に教訓を求める「教訓的歴史」、あるべき未来を設定したうえでそこにむかうプロセスとして歴史を描く「未来主義」、現在を生きる個人のアクチュアルな問題関心に沿って史実を追う「現在主義」、この三つに分類し、歴史研究はおよそこの順序で進化してきたと主張した。 しかし、管見のかぎりでは、今日