イエール学派の領袖として影響を与え続けてきたポール・ド・マン(1919-83年)。本年(2023年)没後40年を迎えるにあたり、ド・マンを読み直す機運が高まりつつある。昨年12月には、主著『読むことのアレゴリー』が講談社学術文庫に収録された。 このメモリアルイヤーの始まりにあたって、ド・マンをはじめとするアメリカの思想界・文学界の事情に通暁し、著書『盗まれた廃墟――ポール・ド・マンのアメリカ』(彩流社)もある巽孝之氏の書き下ろしエッセイをお届けする。 『読むことのアレゴリー』の記憶 1984年の夏、北米はコーネル大学大学院へ留学した私は、ジョナサン・カラーを指導教授に、19世紀アメリカン・ルネッサンスの作家たちをポスト構造主義の理論で読み直す博士号請求論文を仕上げようとしていた。前年1983年にはイエール・マフィアの領袖と渾名されたド・マンが亡くなっていたから、批評誌『ダイアクリティックス