漱石没後100年、生誕150年の節目に、漱石の現代性を探る本連載。第二回は、よく知られる「先生と遺書」の章に着目し、『こころ』を教室で読む意味を考えます。人の「心」の意外な動きとは……? 三角関係を書く作家 漱石は三角関係を書き続けた作家である。ざっとおさらいしておくと、以下のようになるだろうか。 『虞美人草』では宗近一と小野さんで藤尾をめぐってガチンコの対決が行われるが、藤尾の自死によって勝者はいない。前期三部作に進むと、『三四郎』では里見美禰子をめぐって小川三四郎と野々宮宗八がそれとなく意識し合うが、美禰子が兄の友人の法学士を結婚相手に選ぶことで、これはどちらも敗者と言えそうだ。『それから』では長井代助が友人の平岡常次郎に菅沼三千代を「斡旋」したものの、平岡から三千代を取り上げるが、三千代の体調の悪化で結末はわからない。『門』では野中宗助が友人の同棲相手(「内縁の妻」と呼んでいいかどう