「人間観察」という名の悪口 朝9時を過ぎた頃だろうか。テレビの音をBGMに聴くともなしに聴きながら、朝の身支度を行っていると、突然、電話が鳴り始めることがある。 「あの子、やったわね」 電話の主は、希林さんだ。何をやったのかというと、「整形したわね」という意味だ。人間観察がライフワークである希林さんは、ワイドショーが大好きで、スタジオやVTRに映る女優の顔が以前のそれとは変化しているのを発見すると、嬉々として電話をかけて報告してくる。 「ねぇ、8チャンネル、観てごらんよ。美代ちゃんはどう思う?」などと、朝からテレビを見ながら、電話口でああだこうだと何十分も話し合う。希林さんは、映画や舞台の感想を語り合うのと同じくらい、ワイドショーやニュースで様々な事件やゴシップを観て話すのが好きだった。そこに登場する強欲な人間たちを観察したり、業の深い人間が起こす事件について分析するのが好きだったのだ。