遺伝子組み換え作物が米国で栽培され始めた頃、取材におもむいた現地でしばしば聞いた組み換え反対論があった。 資本を集中投下し、遺伝的に均質な作物を大規模に栽培する「工業型農業」や「モノカルチャー」は、生態系を危機に陥れる。種子を占有する多国籍アグリビジネス企業は、世界の農業支配を目論んでいるのだ、と。 組み換え技術の開発企業や農家の話を聞き、技術のメリットや作物の安全性を理解した私には、こうした反対論は、アグリビジネス企業に対する科学的根拠のない反発に思えた。 じつは本書の主張も、「アグリビジネス企業の支配力」に警鐘を鳴らすものである。ただし、そこは進化生物学者、かつ卓越した科学の語り手として知られるロブ・ダンである。問題の核心を、本書で鮮やかにあぶりだしてみせた。 最大の懸念は「多様性の絶えざる低下」 「アグリビジネス企業によって作り出された遺伝子組み換え作物の最大の問題は、健康に対するも