「無料でホスト行ってみない?」 ぬめっとした黒髪のおっさんが言った。 何も知らない女子大生の私は答えた。 「えっ、行きたい!」 それがパンドラの箱だったとは知らずに。 女子大生だった私はその頃、とある学生街のバーでスタッフをしていた。そのバーはお酒を安くたくさん飲めるお店だったので、騒ぎたい学生はもちろん、飲んべえの社会人も来店するような店だった。いつも繁盛していた記憶がある。 常連はとにかく個性的だった。酒に酔うと必ず失禁して周辺では軒並み出入り禁止になっているオヤジや、とりわけ美人でもないような私をいつも「姫」と呼ぶ明らかにホステス上がりのオネエサマまでさまざまだ。 その中でとりわけ存在感があったのは、横にも縦にも体が大きく、ぬめっとした黒髪が特徴的な「あやしいおっさん」だった。 おっさんはいつも強めのスピリッツをストレートでぐいぐい吞み干すほどの酒飲みで、カウンターに立ってあくせく働