今作の淡々と地味にストーリーが進んでいく感じはリアリティたっぷりで、その説得力ある語り口が、人の脳内にある思考の種をインセプションする力のある映画だと思いました。どんな思考の種をインセプトするのかというと、目に見えないウイルスの伝播/感染力の脅威がいかにおそろしいか、ということ。近年のSARS、豚インフル、鳥インフル等で蓄積されてきたウイルスに関する自分たちがぼんやり持っている知識と、劇中で繰り広げられる“現実に新種の強毒性ウイルスが発生した場合の感染の最悪のシナリオ”が結びついて、他人事でない身に迫る恐ろしさを覚えたのでした。これまでニュースなどで大騒ぎになってるのを見ても実感は湧かず「気をつけなきゃな」程度のことを思うくらい。しかし今作ではウイルスがどのような経路や媒介物で広がっていくのかを執拗に描いていく:ゴホゴホと咳をする男が、口元を押さえた手でバスの車内の棒につかまり、支えにし、