新房昭之が監督したTVアニメーション『偽物語』を観ながら私は、新房作品に共通するテーマにようやく気づきつつあった。この作品は、ある種の目の肥えた人々には「内容がない」と評されているらしい。だが、それはあまりに「早まった」評価だと言わざるをえない。『偽物語』のストーリーは「内容がない」というよりも、むしろ「内容を遅らせている」のだ。遅らせること、引き延ばすこと、そして生き延びること、これこそが新房作品の一貫して描いてきたテーマではないか。たとえばこの作品は、普通なら三話で済ますような物語を七話の長さで語ろうとする。その遅れは、シリーズ前作『化物語』と比べても明らかに目立つ。そしてその遅れは、登場人物らの饒舌で、一見すると本筋となんの関わりもないダイアローグによってもたらされている。とすれば当然、私たちは「なぜ彼らはこうもべらべらと喋りとおすのか?」と問うしかないだろう。 ファイヤーシスターズ