今でこそ、謎めいた無口なヒロインは、数多く世に放たれましたが、当時はあそこまで言葉数の少ないキャラクターは例がなく、参考に出来る人物も見当たらず、彼女と向き合うことに途方に暮れていました。 一言発すれば、「もっと抑えて」「言葉が出すぎている」との演出。一見「抑えて」とは技術的に声を潜めることで要求に添えるようにも思えますが、それでは彼女になることはできない。なぜ、声を抑えるのか。なぜ、言葉を出さないのか。その「なぜ」の部分が私の中で腑(ふ)に落ちないと、音には出来ても肉声にはならない。 アフレコ現場で、庵野(秀明)監督に、彼女のひととなりについて疑問をぶつけると、「レイは、感情がないわけではなくて、感情を知らない」との指示。 「??」 だから? どうすればいいの? ときどきこの仕事は、名もなき壺(つぼ)作りの職人のようだな…と思うことがあります。 「床の間に飾る、ちょうどいい感じの壺が欲し