さやかさんが難しそうな本を読んでいる。いったいどんな本なんだろう。彼女の座るソファから少し距離がある。だから、背表紙が見えにくい。ハードカバーの学術書であるのは間違い無い。流石は『最高学府』の4年生。教養学部所属らしく、教養バリバリな感じだ。彼女のソファの周囲に彼女の知性が横溢(おういつ)しているみたい。 そして、彼女は間違い無く髪を切った。高校2年生ぐらいの頃の短さに戻っている。近頃では髪が長くなっていて、ひょっとすると、わたしよりも長く伸びているのかもしれない程だった。わたしの髪の長さは長年両肩に触れる程度だ。最近のさやかさんの髪は両肩よりも下まで伸びていたんでは無かろうか。だけど、この邸(いえ)を今日訪ねてきたさやかさんの髪は、ショートカットの領域に近付いていた。 わたしは自分のソファから立ち上がり、ぺたぺたと彼女のソファとの距離を詰めた。左斜め前に彼女の居るポジションのソファに腰を