ラガービールはつまらない。どの缶を開けても,サッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)という同じ酵母に属する系統(通称「ラガー株」)による風味ばかり。エールビールとワインの醸造に使われている少数だが多様な酵母が様々に異なる代謝産物と風味を生み出すのに比べ,ラガー株酵母の遺伝的多様性は比較にならないほど乏しいのだ。 実際,ラガービールは見た目も味も数百年間ほとんど変わっていない。新たな醸造特性と風味を持つ酵母株を作り出すのが難しいためだ。異なるラガー株をかけ合わせたハイブリッドは実質的に一代限りで,有性生殖しない。だが,その状況が変わろうとしている。 ラガー株酵母の“両親”が判明 このグッドニュースを飲み干すには,15世紀のラガービールの誕生に立ち戻る必要がある。ラガー株のパストリアヌス菌が生まれたのは,ドイツのバイエルン地方の冷たく暗い洞窟に修道僧