父も母も大好きだったけれど、いつか家を出ようと思っていた。それは大海原で浮き輪から手を離して泳ぎ出すような無謀なことだとわかっていた。けれども、大人へのあこがれと、自分はもう一人で生きていけるんだということを世界に証明したかった。 サンフランシスコに着いた日の夜、公衆電話に鎖でつながれた電話帳から、ホテルを探して電話をかけた。英語が通じなくて電話は切られた。マーケット・ストリートを歩くと、いくつかホテルの看板を見つけたが、ドアマンがいるようなホテルに泊まるお金は、僕にはなかった。 いつしか強い雨が降ってきた。鮮やかな色をしたネオン管に24時間と書いてあったドーナツ屋に入り、コーヒーとシナモンドーナツを注文し、カウンターに座って食べた。 ジーンズのポケットから小さなノートを出して、「エクスキューズミー」と言ってから、ホテル、安い、探している、と単語を書いて、それをひとつひとつ指差しながら、カ