「オーストリア」という国の名前から、われわれは何を連想するであろうか。おそらく真っ先に思い浮かべるのは、モーツァルトやシュトラウスをはじめとする作曲家たちであろう。オーストリアの首都ウィーンは今なお「音楽の都」として世界中の人々を惹きつけてやまない。音楽以外にも、クリムトやシーレに代表される世紀末美術、ムージルやツヴァイクらの文学を連想する人も多いだろう。学問の分野においても、ボルツマンやマッハらの自然科学、ゲーデルの数学などが挙がるに違いない。また、あのフロイトが精神分析学を創始した地はオーストリアであったことをわれわれは鮮明に記憶している。 哲学に関して言えば、シュリックやカルナップらに代表されるウィーン学団のイメージがあまりにも強く、オーストリアと言えば、もっぱら「論理実証主義」が栄えた地ということになってしまう。しかしながら、オーストリアにはもう一つの哲学的伝統があったことを忘れて