かつて、芹沢博文という破天荒で天才肌の棋士がいました。私が知っているのは晩年のテレビタレントというイメージのプロ棋士でした。 何かの番組で芹沢の話になりました。若い頃はめっぽう強くて、二日酔いでも将棋を指せば勝ってしまうというほどで、当然、名人になるものと本人も思っていたそうです。ところが、酒好きが過ぎて将棋がおろそかになっていったといいます。 芹沢の弟弟子に中原誠(後の永世名人)がいました。ほどなくして、将棋の成績は中原に抜かれてしまいます。そんなある日、芹沢は突然、号泣したといいます。 このエピソードは本で紹介されていて、当時は読んでいませんでしたが、先日図書館で探したらありましたので、原文をご紹介します。 ## その芹沢博文が、あるとき、激しく泣いた。 芹沢が屋台のオデン屋で飲んでいて、急に涙があふれてきたというのである。 そのとき、芹沢は、突如として、 『ああ、俺は、名人になれない