小麦に限らず、艀荷役はよく積荷を落っことす。 何処かの誰かが到着を今か今かと待ちわびている大事な品を、些細なミスからついつい海の藻屑に変える。 大正十一年度には、青函航路――青森駅と函館駅との間を結ぶ、片道ざっと113㎞のこれ一本をとってさえ、実に一千四百二十三件もの荷役事故が発生したということだ。 (函館港) 一千四百二十三件。 単純計算で、毎日最低三つの荷物を水没させていなければおっつかない数である。 北海道を本州に、もしくは本州を北海道に繋ぎとめている重要航路に、なんという無駄な損失だろう。 宿痾なりと諦めるには、ちょっと(・・・・)以上に多すぎる。 当時の人もそう思ったらしい。対策が打たれ、効果を発揮し、昭和三年にもなると、同種の事故は年十三件まで低下した。 斯くも覿面たる対策とは、すなわち貨車航送法の導入。 汽車から船へ、いちいち荷物を移すなど、そんなまだるっこしい真似はせず。
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