いわゆる「良心作」と銘打たれた映画が、おしなべてつまらないのはなぜか。人間は、「いいことをしようとするときは、自分が非難されたり攻撃されたりする恐れがないわけだから、あまり深く物事を考えないのではないだろうか」。 ▼映画通の作家、長部日出雄さんはいう(『紙ヒコーキ通信』)。むしろ悪事を働こうとするときこそ、「バレると大変だから、いろいろ手口について考えをめぐらす」。 ▼日本の調査捕鯨船が南極海で捕獲した鯨肉の一部を乗組員が無断で持ち出したと、環境保護団体の「グリーンピース・ジャパン」が、東京地検に告発状を提出した。良心的とはとても思えないが、シナリオはよく練られている。 ▼おそらく乗組員に法の裁きを受けさせるのが目的ではない。証拠品の鯨肉を、配達中の運送会社の荷物から無断で抜き取った行為こそ、法に触れる疑いがある。その程度の「悪事」は、反捕鯨という彼らの正義の前では、取るに足らぬことなのだ