ブルース・ウェインがバットスーツのアーキタイプを「俺色に染まれ」とスプレーで黒く塗装するとき、その光景はまるでガレキやプラモを塗装する風景にしか見えず、そのマニュファクチュアの生々しさが生じせしめる卑近さは、しかしスパイダーマンの卑近さとは明らかに性質の異なるもので、ピーター・パーカーがコスチュームを裁縫する過程のヘボさが、我々自身のへぼさ、時に「等身大」と呼ばれる我々自身のパロディとしてのヘボさであるのに対して、そのガレキ塗装的空間の醸し出す笑いは、ひとえにブルース・ウェインが我々自身のパロディなど決して演じ得ない、暴力的なまでの金持ちである、ということに由来する。 この映画の上映前にやっていた予告編が「チョコレート工場」だというのは何とも皮肉な話だが、徹底的に「いま、ここ」ではない空間を演出したバートンに比べ、いや今迄のすべてのバットマンにおいて、今回のバットマンはその金持ちっぷりが暴
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