蚕を育てて繭を取る養蚕農家――東京とは一見縁遠い存在に思われますが、実は八王子市に1軒残っているのをご存じでしょうか。編集者・ライターの小野和哉さんが当事者インタビューを行いました。 「養蚕(ようさん)」と聞いてピンとくる人はそれほど多くないかもしれません。というより、ほとんど皆無といっていいでしょう。養蚕とは、文字通り蚕(かいこ)を育てて、繭(まゆ)を取ること。小さな卵からふ化した蚕は幾度かの脱皮を繰り返し、やがて糸を吐いて白い繭にすっぽりとくるまれます。煮出した繭から細い糸が1本1本と紡ぎだされ、生糸となり、それが縦に横にと編み込まれ、絹織物へと形を変えていきます。 2014年、群馬県富岡市の富岡製糸場が「富岡製糸場と絹産業遺産群」として世界遺産に登録されたことは記憶に新しいかもしれません。明治時代における殖産興業政策の象徴ともいうべき、その施設。かつて生糸は日本の主要な輸出品目でした