外へ出掛けると鼻水が止まらなくなってきた。春だ。春を告げるイカといえば、私にとってはホタルイカである。富山湾で生きたホタルイカを掬ったその日から、彼らの虜になってしまった。赤銅色に輝く体を膨らませて泳ぐ姿は、さながら生きた宝石だ。 ▲青白く光るところばかり取り上げられがちだけれど、光らなくても美しいんですよ そして何より、美味しい。多くの人にとって、ホタルイカの価値はこれに尽きるだろう。ちょうど一口で丸ごと食べられるサイズ、濃厚な肝の旨味に卵の風味。食べられるためにわざわざ深海から浮上してくるわけではないはずだが、ヒトにとっても、沿岸に棲む動物にとってもありがたい春の幸である。 ▲ぷっくりと小豆色に茹ったホタルイカで一献傾けるのが毎春の楽しみ 気になるあの子は謎めいて そんなホタルイカを愛してやまない私であるが、このごろ少し浮気心が出てきてしまった。その生き物の名は、ホタルイカモドキという