いま注目の詩人である岡本啓さんによるエッセイの連載第6回です。今回は、こどもから詩の比喩についてヒントを受け取った話です。ぜひお読みください!(タイトルデザイン:惣田紗希) ふきこんでくる雨、音はまだなく、湿りはじめる地面のかすかなにおい。 数歩、濡れない位置までさがって、地下から吹き上がってくる空気の流れをズボンに感じている。 ひんやりしたタイル壁にからだをあずけながら、地下鉄A出口にて、しばらくじっと。靴先に斑点がうまれ、またいくつかひろがっていく。雨粒は花粉や埃のかすみをけちらして、朝は緑の空気をとりもどしている。 かけこんでくるひとたち。そこにはまだ傘からしずくをふりはらう仕草はない。先週あたりから、もうみんなマフラーをはずして、コートの前を大きくあけている。東京は服を着て、速度をもってなにかに向かっている。やわらかな雷鳴。とおく。言葉を考えていると、どうしたことか、なかなか動かな