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2023年8月20日のブックマーク (1件)

  • 【イチオシ詩歌 8月】《詩は/認知の水位を超えて降りしきる雨だ》

    《詩は/認知の水位を超えて降りしきる雨だ/霧のような雨に濡(ぬ)れて/わたしは橋上で欄干に凭(もた)れる/そして 人知れず老いる》と書く塚敏雄さんの詩集『さみしいファントム』(思潮社・2640円)が不思議な味わいを残す。 読み終えて「サウダージ」という美しいポルトガル語を思い出した。わが国では「郷愁」と訳されることが多いが、隔掻痒の感がある。フランスの音楽家で俳優のピエール・バルーは、これを「いない・いる」と表現した。いとおしい人は現実にはいない。だからこそ、心の中でその人の存在はより大きくなる。この心の動きこそが「サウダージ」というのだ。 書に収められた22編のほとんどは「サウダージ」が起点となっている。「非在」のいとおしい人が、ファントム(亡霊)となって現れ、霧雨に濡れ寂寥(せきりょう)のただなかにある詩人を、時空と生死の境界があいまいな世界に誘い込む。たとえば「祝祭のよるに」。

    【イチオシ詩歌 8月】《詩は/認知の水位を超えて降りしきる雨だ》