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ブックマーク / huyukiitoichi.hatenadiary.jp (46)

  • イスラエルのSFを集めた、恐ろしく質の高い傑作アンソロジー──『シオンズ・フィクション』 - 基本読書

    シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選 (竹書房文庫) 発売日: 2020/09/30メディア: 文庫この『シオンズ・フィクション』は、イスラエルSFの傑作16篇を集めたアンソロジーである。訳者の一人である山岸真さんがの雑誌などで凄い凄いと書いていたので期待していたのだけれども、読み始めてみれば、たしかに恐ろしく質が高い作品が揃っている。それも、イスラエルの文化歴史を反映させた、あまり味わったことのない発想や表現が出てくるので、4篇ほど読んだところでイスラエルにこんなスゲーSFの書き手が存在していたとは……と幽遊白書の魔界トーナメントの気分を味わった。 しかし、それも不思議なことではないのかもしれない。編者二人による巻末に置かれた「イスラエルSF歴史」は、『イスラエルという国家は、質的にサイエンス・フィクション(SF)の国とみなしてもかまわない──地球上でただひとつ、一冊では

    イスラエルのSFを集めた、恐ろしく質の高い傑作アンソロジー──『シオンズ・フィクション』 - 基本読書
  • 人類の英知がこの一冊に詰まった文明速攻再始動マニュアル──『ゼロからつくる科学文明 タイムトラベラーのためのサバイバルガイド』 - 基本読書

    ゼロからつくる科学文明 タイムトラベラーのためのサバイバルガイド 作者:ライアン ノース発売日: 2020/09/17メディア: Kindle版この『ゼロから作る科学文明』は、もしもあなたがタイムトラベラーではるかな未来から過去の世界に飛んでしまい、さらに戻る手段がなくなったとしたらどうやって文明を再興するのか──について書かれた一冊である。 実はこれと同じ発想のが5年前に邦でも翻訳で刊行されている。それは『この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた』というで、最初書(ゼロから〜の方)の書名と内容をみたとき、あまりにも『この世界が〜』とかぶっていそうだったんで、「色んな意味で大丈夫なのかな?」とビクビクしながら読み始めたんだけど、きっちりこの世界が〜の著者ルイス・ダートネルからの推薦コメントも存在しているし、何よりの最初の前提の置き方がこの二冊では異なっているので、書かれている

    人類の英知がこの一冊に詰まった文明速攻再始動マニュアル──『ゼロからつくる科学文明 タイムトラベラーのためのサバイバルガイド』 - 基本読書
  • 予知能力を持った一人の女性の人生を2043年まで描きあげた『クラウド・アトラス』著者による幻想文学──『ボーン・クロックス』 - 基本読書

    ボーン・クロックス 作者:デイヴィッド ミッチェル発売日: 2020/08/20メディア: Kindle版この『ボーン・クロックス』は、19世紀から第二次世界大戦前、1970年代に現代ロンドンと幅広い年代&場所&職業の人間を通して一枚の複雑な絵を描きあげた『クラウド・アトラス』で知られるデイヴィッド・ミッチェルの6作目の小説である。これまでの作品と同じく、複数の時代や特殊能力を持つ人間を語り手に据えながら、パズルが組み上がっていくように大きな世界を築き上げてみせる、壮大な幻想文学だ。 最初の舞台になるのは1984年、イギリスのケント州で暮らす当時15歳のホリー・サイクスだ。親に年上の彼氏との交際に反対されたことから思春期らしい反抗性で家出を決意。その直後信じていた恋人に浮気が発覚して裏切られ、親を少し懲らしめてやるためにも、頼れる人がいない中数日間なんとか一人で生きていこうと四苦八苦するの

    予知能力を持った一人の女性の人生を2043年まで描きあげた『クラウド・アトラス』著者による幻想文学──『ボーン・クロックス』 - 基本読書
  • あり得たかもしれない宇宙開発史を描き出す、主要SF賞総なめの話題作──『宇宙へ』 - 基本読書

    宇宙【そら】へ 上 (ハヤカワ文庫SF) 作者:メアリ ロビネット コワル発売日: 2020/08/20メディア: Kindle版宇宙【そら】へ 下 (ハヤカワ文庫SF) 作者:メアリ ロビネット コワル発売日: 2020/08/20メディア: Kindle版この『宇宙(そら)へ』は、メアリ・ロビネット・コワルによる、1950年代の女性の計算者&パイロットの物語を描き出す、宇宙開発系のSFである。ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞というアメリカの主要SF関連賞を総なめにした、SFにおける今年最大の話題作のひとつ。僕はそもそも、SFとしては現実的な科学に根ざして宇宙を舞台に展開する物語、宇宙開発系と言われるサブジャンル全般が特に好きだから、作にも大いに期待していたんだけど──いやーこれはおもしろかった! 主な舞台となっているのは先に書いたように1950年代のアメリカだが、この世界は我々の

    あり得たかもしれない宇宙開発史を描き出す、主要SF賞総なめの話題作──『宇宙へ』 - 基本読書
  • 基礎科学の重要性──『「役に立たない」科学が役に立つ』 - 基本読書

    「役に立たない」科学が役に立つ 作者:エイブラハム・フレクスナー,ロベルト・ダイクラーフ発売日: 2020/07/29メディア: 単行この『「役に立たない」科学が役に立つ』はプリンストン高等研究所のエイブラハム・フレクスナー(1866-1959)、ロベルト・ダイクラーフ(1960-)の二人のエッセイを収録した一冊である。100ページ程度の薄いで、その約半分ほどはフレクスナーによる1930年代に発表された文章を元にしているので、半分古典といえる。 しかし、ここで語られていることはそうそう古びるものではない。短い内容なので簡単に要約してしまうが、それは「基礎研究は重要だよ」ということである。応用研究は成果が見えやすいので、そうした方向に力を入れたくなる気持ちもわかるが、かといって歴史を変えた科学の多くは最初はなんの役に立つのかさっぱりわからない純粋な好奇心の追求からはじまっているのであって

    基礎科学の重要性──『「役に立たない」科学が役に立つ』 - 基本読書
  • なぜ、無意味な仕事ばかり増えているのか?──『ブルシット・ジョブ──クソどうでもいい仕事の理論』 - 基本読書

    ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論 作者:デヴィッド・グレーバー発売日: 2020/07/30メディア: 単行この『ブルシット・ジョブ』は、文化人類学者であるデヴィッド・グレーバーによる「クソどうでもいい仕事」についての理論である。「クソどうでもいい仕事」とはなにかといえば、文字通りとしかいいようがないのだけれども、「その仕事に従事している人がいなくなっても誰も何も困らないような無意味な仕事」のことである。 原書で刊行された時から日でも大変に話題になっていた一冊で、楽しみに読み始めたのだけど、これがとにかくおもしろい! 確かに世の中にはブルシット・ジョブとしか言いようがないくだらない仕事が溢れているように見える。それがどれほどありふれているのか、またどのようなタイプのブルシット・ジョブが存在するのか。また、仮にこれが近年さらに増大を続けているとしたら、それはなぜなのか。そ

    なぜ、無意味な仕事ばかり増えているのか?──『ブルシット・ジョブ──クソどうでもいい仕事の理論』 - 基本読書
  • ハヤカワの1000作品が最大50%割引の超大型電子書籍セールがきたのでオススメを紹介する!! - 基本読書

    三体 作者:劉 慈欣発売日: 2019/07/04メディア: Kindle版うおおおコロナで外に出る理由もない今日この頃、突如として早川書房から1000作品が最大50%割引の超大型電子書籍セールをはじめたのでオススメを紹介します!! 早川は毎年、海外SFだったり日SFだったりと、わりとテーマを絞った数十〜数百点規模のセールはやっていたのだけど、垣根がなくここまで大規模のセールははじめてでは!? 早川といえばSFとミステリと科学ノンフィクションなので、そこらへんを重点的に紹介してみようかと思いやす。ちなみにセール商品全点は下記の通り。 www.amazon.co.jp SF篇 まず「これは当然だよなあ?」レベルの王道から行くと、なんといっても劉慈欣の『三体』だ! 識者らがアンケート形式で投票し、その得票数でランキングを決める「SFが読みたい!」というムックのランキングで2位を大きく突き放し

    ハヤカワの1000作品が最大50%割引の超大型電子書籍セールがきたのでオススメを紹介する!! - 基本読書
  • 複雑な人間関係・時代関係がカタルシスへと直結していく、尖りすぎた近年最高峰のSFアドベンチャーゲーム!!──『十三機兵防衛圏』 - 基本読書

    十三機兵防衛圏 - PS4 作者:出版社/メーカー: アトラス発売日: 2019/11/28メディア: Video Gameいやはやこれは当におもしろい、今年最高のゲームだった。『オーディンスフィア』などで知られるヴァニラウェア✗アトラスの新作だが、タイトルからもわかるように作はいわゆるロボットゲームである。ゲームパートはRTSのタワーディフェンス型の仕組みが採用されていて、こちらも大変におもしろい内容に仕上がっているのだけれども、特筆したいのは、アドベンチャーパートのシナリオに各種演出だ! 物語冒頭、怪獣の侵攻によって街が破壊されつつあり、人々が逃げ惑う中一人の女子高生が太ももをすっとなでる/さらう動作をすることで、STARTの文字が浮かび上がり、街中の歩道橋越しに巨大な人型ロボットが、ばりばりばりという時空の歪みのあとに突如出現するという一連のシークエンスでぞっこん惚れ込んでしまっ

    複雑な人間関係・時代関係がカタルシスへと直結していく、尖りすぎた近年最高峰のSFアドベンチャーゲーム!!──『十三機兵防衛圏』 - 基本読書
  • BIを導入したら本当に人は働かなくなるのか?──『みんなにお金を配ったら──ベーシックインカムは世界でどう議論されているか?』 - 基本読書

    みんなにお金を配ったらー―ベーシックインカムは世界でどう議論されているか? 作者: アニー・ローリー,上原裕美子出版社/メーカー: みすず書房発売日: 2019/10/11メディア: 単行この商品を含むブログを見るベーシックインカムという、最低限所得保障の考え方がこの世に存在する。簡単に説明すれば、一月3万なり10万なりを、制限をつけず全国民に配布しちゃいましょう、という考え方である。「え、毎月10万貰えたらメッチャ嬉しい、やったー!」と気分が沸いてくるが、実際には利点に関しても欠点に関しても様々な議論がある。 BIの想定される利点と欠点 たとえば、そもそも財源をどうするんだ、という問題がある。また、全国民に配分するということは、金持ちにも同様に配るわけなので、貧困者を狙い撃ちにしたほうがもっと効果的なんじゃない? 説もある。他にも、毎月10万も(仮に)もらえたとしたら、人々は働かなくな

    BIを導入したら本当に人は働かなくなるのか?──『みんなにお金を配ったら──ベーシックインカムは世界でどう議論されているか?』 - 基本読書
  • 科学的で現代的な「人を動かす」──『事実はなぜ人の意見を変えられないのか-説得力と影響力の科学』 - 基本読書

    事実はなぜ人の意見を変えられないのか-説得力と影響力の科学 作者: ターリシャーロット,上原直子出版社/メーカー: 白揚社発売日: 2019/08/11メディア: 単行この商品を含むブログを見る事実では人の行動は変わらないという。議論をしたときに「これこれこういう事実がある」という主張をしても相手の意見が変えられなかった、ということは多かれ少なかれみな体験しているものではないだろうか。たとえば、アメリカではワクチンを摂取することで知的障害などが発生するリスクがあるというデマが拡散して、そのせいで百日咳やおたふく風邪が今更蔓延するというアホくさい状況が発生している。 ワクチンによって知的障害リスクが上がるのは完全にデマなので、科学的な事実の啓蒙を行えばいいでしょ、と思うかもしれないが、実はこれには全然効果がないのである。ある実験では反ワクチン思想を持つ親を集め、麻疹にかかった子どもの痛まし

    科学的で現代的な「人を動かす」──『事実はなぜ人の意見を変えられないのか-説得力と影響力の科学』 - 基本読書
  • ヒューゴー賞を三年連続で受賞し、荘厳なアートワークで圧倒する化け物級のエピック・ファンタジィ・コミック──『モンストレス』 - 基本読書

    モンストレス vol.1:AWAKENING (G-NOVELS) 作者: マージョリー・リュウ出版社/メーカー: 誠文堂新光社発売日: 2017/12/22メディア: Kindle版この商品を含むブログを見るこの『モンストレス』はいわゆるアメリカン・コミックで、中国アメリカ人のマージョリー・リュウが原作、日人のタケダサナが作画をそれぞれ担当して、現在も刊行が続いているファンタジィ・シリーズである。最新刊は現状三巻まで。 で、一巻が出た頃から話題になっていたのだが、その後の快進撃が凄い。その年のヒューゴー賞のグラフィックストーリー部門を受賞。アイズナー賞、英国幻想文学大賞など数々の栄誉ある賞を獲得し続け、話題はその後も継続し続けている。たとえばヒューゴー賞は、3年連続(2017、18、19)で受賞、18年についてはグラフィックストーリー部門とプロアーティスト部門で原作者と作画者が同時受

    ヒューゴー賞を三年連続で受賞し、荘厳なアートワークで圧倒する化け物級のエピック・ファンタジィ・コミック──『モンストレス』 - 基本読書
  • SFマニアからビギナーまであらゆる層を満足させる、オールタイム・ベスト級の傑作SF短篇集──『なめらかな世界と、その敵』 - 基本読書

    なめらかな世界と、その敵 作者: 伴名練,赤坂アカ出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/08/20メディア: 単行この商品を含むブログを見るこの『なめらかな世界と、その敵』を端的に紹介すれば、SFマニアからビギナーまであらゆる層を満足させる、オールタイム・ベスト級の傑作SF短篇集である。とはいえ著者伴名練の名は、SFファン以外は聞いたことはないだろう。既刊行作は『少女禁区』という約10年前に刊行された中短篇集一冊のみで、その後も企画物のアンソロジーに散発的に短篇を発表しるのみだったから、普通は知る機会は多くはない。 だが、SFファンの間では、書の刊行前から伴名練の名は異常なほどの熱気でもって知られていた。というのも、商業発表作こそ少ないものの、同人誌に毎年のように新作短篇を発表しており、その作品の出来がまた凄まじかったからだ。それまでのSFの先行作を緻密かつ複雑に折り込み、舞

    SFマニアからビギナーまであらゆる層を満足させる、オールタイム・ベスト級の傑作SF短篇集──『なめらかな世界と、その敵』 - 基本読書
  • 中国だけで2100万部、話題性と本物のおもしろさを兼ね揃えたバケモノ級の中国SF──『三体』 - 基本読書

    三体 (ハヤカワ文庫SF) 作者:劉 慈欣早川書房Amazon『三体』とは! 中国の作家劉慈欣によって書かれたSF三部作の第一部目にして、中国国内だけで三部作累計2100万部を刊行し、さらに日でも人気のケン・リュウによる翻訳によってアメリカ歴史あるヒューゴー賞を受賞した傑作である。ヒューゴー賞受賞の何が凄いかと言うと、翻訳書としてははじめてのの受賞になるのだ。 それぐらい作品の内容が圧倒していたともいえる。で、あまりSFとは縁のなさそうなオバマやザッカーバーグも絶賛していたりとか、アニメ化が決定したりとか話題は尽きないんだけれども、とにもかくにもこれだけは覚えて帰ってもらいたいのは、この『三体』は、話題先行の内容はまあおもしろいね、いうほどじゃないけど的な軟弱な態度で読み終わる作品ではなく、その肥大化しきっているともいえる話題性に劣らない、圧倒的なおもしろさのある、純粋におもしろいSF

    中国だけで2100万部、話題性と本物のおもしろさを兼ね揃えたバケモノ級の中国SF──『三体』 - 基本読書
  • Kindle読み上げでたくさん本を読む - 基本読書

    この何ヶ月かKindle読み上げを利用してけっこうな冊数を読んでいて、なかなかいいぞとかこれは難しいぞという知見が貯まってきたのでここらでいったん共有したい。Kindle読み上げとは何なのかといえば、Kindleのアプリケーションに存在する読み上げ機能を使って音声でを読むというただそれだけのことであり、別に特段のスキルも準備も必要ない(最低限スマホかタブレットは欲しいところだけれども)。設定方法については面倒なのでこの記事では解説しない。Kindle読み上げで検索スべし。 katsumakazuyo.hatenablog.com この記事では方法よりも「そもそもどんなが読み上げに向いているのか?」とかの使用感を中心にしていこうと思う。僕自身も人がやっている(勝間和代さんとか)のを見かけてやってみたのだけれども、正直最初は半信半疑であった。ていうか音声で聞いてたら読み終えるのに時間かか

    Kindle読み上げでたくさん本を読む - 基本読書
  • 脳が進化していくどのタイミングで神が現れたのか?──『神は、脳がつくった――200万年の人類史と脳科学で解読する神と宗教の起源』 - 基本読書

    神は、脳がつくった 200万年の人類史と脳科学で解読する神と宗教の起源 作者: E.フラー・トリー,寺町朋子出版社/メーカー: ダイヤモンド社発売日: 2018/09/27メディア: 単行この商品を含むブログを見る神は脳がつくったとはいうが、だいたいの感情や概念は脳が作っとるじゃろと思いながら読み始めたのだが、原題は『EVOLVING BRAINS, EMERGING GODS』。ようは「具体的に脳が進化していく過程でどの機能が追加された時に、神が出現したのか?」という、人間の認知能力の発展と脳の解剖学的機能のを追うサイエンスノンフィクションだった。神は主題ではあるが、取り扱われるのはそれだけではない。 認知能力が増大した5つの変化 書では主に、認知能力が増大した5つの重要な段階を中心に取り上げていくことになるが、最初に語られるのはヒト属のホモ・ハビリスである。彼らは230万年前から1

    脳が進化していくどのタイミングで神が現れたのか?──『神は、脳がつくった――200万年の人類史と脳科学で解読する神と宗教の起源』 - 基本読書
  • 人間に子供が産まれなくなった未来を描き出す、森博嗣によるSFシリーズ、ついに完結!──Wシリーズ - 基本読書

    人間のように泣いたのか? Did She Cry Humanly? (講談社タイガ) 作者:森 博嗣発売日: 2018/10/24メディア: 文庫森博嗣による、人間による子供がほとんど生まれなくなり、人工知能などの電子知性が人間を遥かに上回る能力を発揮しはじめたばかりの状況を研究者の視点で描き出すWシリーズが先日出た第十作目『人間のように泣いたのか?』でついに完結。 この記事では完結ということでざっくりシリーズへの総評的なものをして置こうと思うが、まずなにをおいても素晴らしいSF作品であったというところは最初に書いておきたいところだ。特に、高度な人工知能、ロボットが当たり前に存在し、人々の寿命が飛躍的に世界はどのような社会をとるのか──意思決定、政治の在り方・戦争、研究手法などなど──といった描写は、10作ものシリーズ物であるから世界各地の細かい部分まで含めて描かれ、議論されており素晴らし

    人間に子供が産まれなくなった未来を描き出す、森博嗣によるSFシリーズ、ついに完結!──Wシリーズ - 基本読書
  • デビュー作にして超ド級の傑作ハードSF──『ランドスケープと夏の定理』 - 基本読書

    ランドスケープと夏の定理 (創元日SF叢書) 作者: 高島雄哉出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2018/08/30メディア: Kindle版この商品を含むブログを見る書『ランドスケープと夏の定理』は第5回創元SF短編賞を受賞した高島雄哉の、受賞作を端緒とする3編の連作短編集にして、単行のデビュー作になる。その作風を一言でいえばキャラ萌えが追加されたグレッグ・イーガン(いや、イーガン作品のキャラに萌えないってわけじゃないですよ!)、日作家でいうならば小松左京みたいなもんで、ちゃくちゃおもしろい。ぜんぜんデビュー作って感じじゃない。 21世紀後半を舞台に、22歳で教授になった天才物理学者の姉と、姉には及ばないものの優秀な弟が、世界を激変させる知性に関する3つの新しい定理を解き明かしていく──と、ざっくり表現すればそんな話になる。第一作「ランドスケープと夏の定理」では、”すべての

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  • ビル・ゲイツが絶賛しオバマ前大統領が楽しんだ本格宇宙SF──『七人のイヴ Ⅰ』 - 基本読書

    七人のイヴ ? (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) 作者: ニール・スティーヴンスン,日暮雅通出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2018/06/19メディア: 新書この商品を含むブログを見るサイバーパンクの傑作として名高い『スノウ・クラッシュ』、ナノテクの発達によって変容した文明社会を描き出す『ダイヤモンド・エイジ』などでその名を世界に轟かせたニール・スティーヴンスンによる格宇宙SFがこの『七人のイヴ』である。 早川書房からのリリース文では『マイクロソフト創業者のビル・ゲイツが「思考を喚起する圧倒的な面白さ」と自身のブログで絶賛。また、任期中のオバマ前大統領が夏に楽しんだ1冊だと公表したことでも話題となった全米ベストセラーです。』とあり、え、それは当にSFなの? と疑問に思ったぐらいだったが、月が突如として7つに分裂して以後の、人類の存亡をかけたサバイバルを描く純然たる傑作(今のとこ

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  • 自分が何を知らないのかを知ることの重要性『知ってるつもり――無知の科学』 - 基本読書

    知ってるつもり 無知の科学 (早川書房) 作者:スティーブン スローマン,フィリップ ファーンバック早川書房Amazon「何かを知っている」と言い切るのは、言葉の定義にもよるだろうが、なかなか難しい話だ。たとえば僕は電子レンジがマイクロ波を照射して水分子を振動させることで温度を上げる機械であることを知っているが、そのより詳しいメカニズムはよく知らないし、ましてや自分で部品から電子レンジをつくりあげることなんかできない。 自分を基準にしてしまって申し訳ないが大抵の人が電子レンジについて知っているのはこの程度のものだろう。人間はけっこう賢いし物知りだが、かといって一人で電子レンジを作り上げられるほど、たった1つのモノのすべての側面に精通するほど知ってはいない。書はそうした”人間の無知”についてのである。われわれはいったいどれほど無知なのか。われわれ無知で愚かな人間はどのように物を考え、どう

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  • 世界をディストピアに変えてしまった時間航行士の奮闘を描く時間SF──『時空のゆりかご』 - 基本読書

    時空のゆりかご (ハヤカワ文庫SF) 作者: エラン・マスタイ,金子浩出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2018/02/06メディア: 文庫この商品を含むブログ (1件) を見る書『時空のゆりかご』は著者エラン・マスタイのデビュー作にして、”ユートピアだった世界”を”くそみたいな世界”──我々が暮らすこの世界のことだが──に変えてしまった時間航行士の、時空を超えた奮闘を描くスマートな時間SFだ。過去を変えることで未来も変わってしまうという使い古された時間SFのアイディアを扱いながらも新しい道、読み味を開拓しており、驚くほど新鮮に読める作品である。 デビュー作とはいえ、著者は『アローン・イン・ザ・ダーク』や『もしも君に恋したら。』などの脚を手がける手練の脚家。書も時間SFにありがちなそこそこ複雑な構造・構成をとり、メタ的な要素までありながらも抜群に読みやすく、ネタ的には格的なS

    世界をディストピアに変えてしまった時間航行士の奮闘を描く時間SF──『時空のゆりかご』 - 基本読書