「急に耳が聞こえなくなりまして、今も聞き取りがすごい苦手です。単にボリュームが落ちたんではなくて、子音が聞き分けにくいので、一日中、ヒアリングテストみたいな状態になりまして。補聴器をつけてお葬式に行くと、音楽を聞いてると思われるんですよ。それと、気配がわかんなくなっちゃって。お葬式の調査で、すごい神経遣うのは、どこに自分が立つかなんですよね。目立たないよう、気配を感じて、誰かがひそひそ言っていたら、あいさつをすべきか、むしろ、その場を避けたほうがいいのか、咄嗟に判断しながらやってきたんですけど、もう、それが本当に、耳が聞こえなくなったらできなくなったので、フィールドワークはあきらめて。でも、素朴にやりたいことをやるしかないのかなって思って、それではじめたひとつがこれですね──」 遺された影 山田さんが、差し出したのは「近代における遺影の成立と死者表象」という論文の別刷りだ。 遺影の成立、と