〈「須磨がえり」という言葉があります。これは「燕がえし」のような必殺剣の名前ではなくて、源氏物語を読もうとする時、多くの読者がぶつかる困難のことです〉 これは、本書であらすじ部分のまとめと解説を担当している伊井春樹氏の言葉だ。 〈読者は、チャレンジしようと思って第一帖「桐壺」から読み始めても、だいたいみんな「須磨」あたりでイヤになってしまう。このことを昔から「須磨がえり」と呼ぶのですが、実は、それでは前半の五分の一までしか、読んだことにはなりません〉 国文学研究資料館長の伊井氏は、源氏物語を始め、中世日本文学研究の第一人者のひとり。彼でさえ、最初は文法やら文化の違いやら細かいことに気を取られて、『源氏物語』の面白さがわからなかったと苦笑している。 源氏物語千年紀に当たっていた昨年は、これもいいきっかけとばかり、果敢に挑んだ人も多かったろうが、コミック版なら何とか読み通せても、きちんと日本語
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