ひしひしひしひしと、宵闇が背中を追っている。 鬱蒼と木々が生い茂り、更なる昏い影を投げ掛ける奥深い山の道なき道であるのに、小間物屋の茂平は息せき切って、音をなるべく立てないように走っていた。 早鐘の如く鳴り響く自分の鼓動が外に漏れ聞こえるのではないかと怖れながら、止まることなく只管速足で峠を下っていく。 しとどに吹き出し滴る汗を拭いもせず、背中の行李の重さも気にする暇もない。 峠とは言え、街道から大きく外れている獣道である。 仕入れに少しばかり手間取ってしまい、出立が遅くなってしまった。 それを取り返そうと近道を進んでいたのだ。 そしてあれに出くわしてしまった。 見かけた途端に出来るだけ音を立てず、急いで逃げた。 自分が居た事は多分気付かれているだろうが、何処に居るか迄はまだ見極められていない筈だ。 茂平はそう自分に言い聞かせつつ、萎えそうになる体と心に喝を入れ乍ら、足を動かし続けた。 見
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