現実はフィクションのように単純じゃない、って、いつも言われる。でもそれは、逆だと思う。 もうフィクションの中では、悪いやつをただ悪いやつとして提示することは、難しい。 悪いやつにもなんか事情があったんだとか、正義の反対には別の正義があるとか、そういう筋立てはとても多い。 だからみんな、「悪いやつ」のことをついつい忖度しちゃう。 それに、「被害者」の心の動きも複雑だ。紆余曲折を経て被害者と加害者が愛を育む展開だってけっこうある。 「いや待ってくれ。これこれこういう視点もありうるのでは? 別の角度から見たら正義といえるのでは? 被害者はただ被害を受けているだけだったのか? そこには“同志的な関係”があったりしたのでは?」 違うよ。 現実は、そんな複雑なフィクションなんかより、もっとずっと単純なんだよ。 悪があって、被害者がいるんだ。 この世界はフィクションじゃなくて、現実なんだ。