経営は、感情とはかかわりのない、理性の世界であると思われてきた。名経営者のなかには、「経営は感情ではなく、論理こそが大事だ」と強調される方が多い。経営者ともなれば、自分の感情を押し殺さなければやっていけない。また、人の情に流されると、冷静な判断と意思決定ができず、目が曇ってしまうというのがその理由だ。学問における経営学も同様に、理性のほうばかりを強調してきた。合理的モデルによって企業行動を検討していこうとする傾向があからさまだった。しかし、アメリカの社会学者アーリー・ラッセル・ホックシールドの研究が発端となって、経営の場面で感情の問題を考え直す契機が訪れている。 ●「感情労働」という新しい労働 「感情労働」(emotional labor)という言葉を聞いたことがあるだろう。これまでもよく知られてきた「肉体労働」と「精神労働」に対比する意味で使われている。感情労働という新しい形の労働は、「