ノンフィクション作家・魚住昭氏が極秘資料をひもとき、講談社創業者・野間清治の波乱の人生と、日本の出版業界の黎明を描き出す大河連載「大衆は神である」。 部数が伸び悩んだ雑誌『講談倶楽部』の編集方針を刷新し、「新講談」を軸にすえて成功を収めた清治。そのころ清治が出会ったある企業家は、のちに、出版業界を支える「流通システム」を大きく変えることになるのだった。 第四章 団子坂の奇跡──東京堂・講談社枢軸の形成⑴ 大野孫平 翌大正3(1914)年2月、「新講談」で上げ潮に乗った清治は大野孫平(まごへい)と出会う。この出会いは、清治の出版人生にとって決定的な意味を持つ。 大野は、戦前最大の元取次(出版社と書店をつなぐ全国規模の流通業者)だった東京堂の経営者で、「業界最高の実力者、また指導者として衆望の中心とされつつ、わが出版販売史上に不滅の功績を数多く積み重ねた」(『日本出版販売史』)人物である。 し