経済学者の山田雄三は、計画経済論、日本の国民所得統計、社会保障の整備などに大きな貢献を残したことで知られる。また晩年の様子は城山三郎の小説『花失せては面白からず』でも有名である。 山田は経済学者なのだが、城山の小説の表題にも活かされているように、謡曲についても一家言あり、謡曲について重要な論説を書き遺している。それは主に謡曲のドラマ的な要素に注目することで、価値判断(価値感情)の問題に焦点をあてたものといえるだろう。 経済学は通常、事実判断と価値判断を区別している。また価値判断には、きわめて主観的な感情と、一定の事実認識が含まれている。この点については、先日このトークイベントでも言及した。 ところで謡曲を評価する態度は、もっぱら価値感情の世界に属するものである。謡曲のドラマ的要素は、確かに「事実」ではあるが、それはあくまでも仮想的なものとしての「事実」であり、経済学の対象とする事実とは区別